研究内容 Research


1. 中枢内食欲調節メカニズム

現在肥満者人口が世界中で増加の一途をたどっています。肥満の主な原因は過食であり、食欲を制御するメカニズムの解明は、これからも極めて重要な課題であることが予想されます。今までの多くの研究は視床下部の食欲制御中枢のメカニズムの解明が進められてきましたが、当講座ではさらに視床下部―大脳辺縁系―末梢器官の互作用という観点から食欲メカニズムの解明を進めています。神経回路の解明については逆行性トレーサーの使用や、ウィルスベクターを使用して脳内分子のon-offによりその神経回路の機能解析を行っています。本研究室では、中枢の全身代謝制御という視点から、小動物用CT、PET、SPECTさらには電気生理学的手法を最大限駆使して研究を進めています。

2. オキシトシンによる抗肥満作用およびその他多彩な生理作用の研究

オキシトシンは1906年に子宮収縮や射乳を促すホルモンとして発見されました。しかし近年になって新たな作用が次々と報告されている神経ペプチドであり、「ラブホルモン」として広く知られています。

当講座ではオキシトシンの抗肥満作用、食欲抑制作用のメカニズムの解明をおこなっており、オキシトシンを利用した抗肥満薬の開発を目指しています。

近年オキシトシンは抗肥満作用に加えてコミュニケーション能力の改善や、骨代謝の改善、パートナーとの絆を深める等、他にも多くの素晴らしい効果が報告されており、当講座では、オキシトシンによる健康寿命延伸効果にも着目しています。高齢化社会を迎えた日本に研究成果を還元するべくその多彩な作用の解明と応用を目指しています。

3. オキシトシン受容体の構造決定

我々は、オキシトシンとオキシトシン受容体複合体の立体構造を決定し細胞外領域におけるオキシトシン認識機構を原子レベルで解明しようとしています。立体構造の決定により、自閉症が引き起こされる原因の一端を原子レベルで解明し新規薬剤の開発を目指しています。

4. オキシトシン受容体のリガンド探索を目指したバイオセンサーの開発

KATPチャネルの立体構造情報をもとに、オキシトシン受容体を組み合わせた人工タンパク質の作製を目指します。オキシトシン受容体のリガンド結合を電気信号に変換することによって、放射性ラベルを必要としないリガンド感知センサーを生み出し創薬に役立つナノデバイスを作製します。

5. KATPチャネルとインスリン分泌~新生児糖尿病/DEND症候群の治療を目指して~

KATPチャネルはインスリン分泌のカギとなるイオンチャネルで2型糖尿病における治療標的にもなっています。当講座では国内外トップクラスの大学・研究室と緊密な連絡を取りつつ、KATPチャネルによるインスリン分泌制御機序を電気生理学的手法や電気生理学的手法を駆使して行っています。

また2004年にはKATPチャネルの変異によって生後6か月から糖尿病を発症する新生児糖尿病が発見されました。KATPチャネルは脳にも広範囲に発現しているため重症例では重篤な脳神経症状も呈します(DEND症候群)。非常に稀な疾患であるために、その完全な治療法も発見されていません。当講座は分子生物学/電気生理学的手法を駆使し、本疾患の病態機序・治療法の研究に全力で取り組んでいます。国内でも数少ない新生児糖尿病/DEND症候群を研究する講座として、強い使命感を持って研究しています。

6. 薬物動態と相互作用

普段何気なく口にする食べ物や飲み物の中には病気の治療に用いられる薬物の体内での動態や作用を変化させてしまう成分が含まれているものがあります。当講座では緑茶とその主成分であるカテキンと呼ばれるフラボノイドに着目し、どのような薬物とどのような相互作用を起こすかについて細胞実験や臨床試験を行って調べています。最近では、緑茶に含まれるカテキンと高血圧の治療薬であるナドロールを同時に服用すると、カテキンがナドロールの消化管からの吸収を抑制し、血中濃度を著しく低下させることを見出しました。さらなる研究に結果、市販のペットボトル緑茶に含まれる程度の量であってもカテキンはナドロールの動態を変化させる可能性があることが明らかとなり、これらの知見から、実際に高血圧治療のためナドロールを服用していた患者さんがお茶を飲んだ場合、ナドロールの治療効果、つまり血圧を下げる作用が弱まってしまうかもしれないことが示唆されました。私達のグループではこのように臨床薬理学的な観点から、緑茶カテキンをはじめとしたフラボノイド類と薬物との相互作用の解明を進めています。

7. 骨格筋と炎症

「敗血症」は、臓器不全を伴う重篤な感染症です。医学の発展により、救命に成功する敗血症の患者様は増えています。回復期の敗血症の患者様を苦しめるのが、全身性の炎症反応が引き金となる、「敗血症誘発性骨格筋萎縮」です。この病態はリハビリテーションを妨げ、生活の質を著しく低下させ、離床の大きな障害となります。

我々の研究室では、敗血症の主要な原因となるグラム陰性菌の構成成分が、筋幹細胞の再生能低下を引き起こす分子メカニズムを明らかにしました。

これまで得られた知見をもとに、現在我々は敗血症誘発性筋萎縮の新規薬物治療を、筋幹細胞再生能力の回復、および骨格筋融解シグナル抑制の両方面から探索しています。日々の研究活動を通して、我々は炎症と、それが誘発する筋萎縮に対する新たな治療戦略の構築を目指しています。

8. 漢方の科学化

漢方は日本で独自に発展した医学です。従来、漢方薬は伝統的な「証」に基づいて処方されてきましたが、近年の研究により基礎医学の観点からその効果が明らかとなってきました。当講座では基礎医学の観点から電気生理学・分子生物学など最新の技術を駆使して漢方薬の効果を科学的に解明することに取り組んでいます。